Chapter7:「追跡」
「ありがとう・・・水沢さん」 城戸澄也の妹が、玲於奈が持って来たお見舞いの花を受け取った。 玲於奈は、長期にわたって植物状態が続いている教師の顔を見つめていた。 消火器落下による城戸の後頭部の外傷は、脳が硬膜を突き破ってしまうほどの粉砕骨折だったが、森崎 事件後に、関係者全員が警察の事情聴取を受けた。消火器の指紋が何者かによって拭き取られていたこ (頭のケガで意識障害になって、植物状態が数ヶ月続くと、回復の見込みはまず無いらしい・・・空があの時、 面会を終えて、エレベーターホールへ移動した玲於奈は、小児病棟からパジャマ姿で走ってくる少年を見か 「待てーーっ、ハギト!!」 猫の形をした影が、玲於奈の足の下を通過し、続いて少年が股下にすべり込んできた。少年はそこから無理 「お姉ちゃんもあいつを捕まえてよぅ」 まるで弟のように甘えた声で話しかけてくる少年に玲於奈は戸惑った。そこへ、杖をつきながら、不自由そうな 「ここにいたのか、恭太郎君・・・・早く病室に戻りなさい」 「ナガミネおじさん、ハギトが逃げちゃったよ」 「ほら・・・まだ、あそこのデイルームの入り口のところにいますよ。走らなくても大丈夫ですから」 少年は、立ち上がって猫の影の追跡を続けた。ナガミネと呼ばれた男が玲於奈を見て愛想笑いを浮かべた。 「その制服は・・・・・お嬢さん、十全堂小学校の生徒さんだね・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「君は、5年生の森崎空さんのお友だちかい?」 藪から棒に、どうして空の名前が出てくるのか、と玲於奈は怪訝な表情になった。 「・・・・・・そんな名前の子、学校にいたかしら・・・・・?」 その男は、玲於奈がわざとそのような言い方をしていることに気付き、再び、愛想笑いを浮かべた。 「君・・・今見たことを彼女には内緒にしてくれるかい?」 ナガミネは、玲於奈の傍に近寄って、四つ折にした 「あの生意気な男の子のこと?・・・・それとも、変な猫の影のこと?」 「出来れば・・・・両方、お願いします・・・・」 そこへ、若い看護師の女性が現れた。ホールに響くほどの甲高い声で片腕の男を怒鳴りつけた。 「長嶺さん、安曇恭太郎君を病室から連れ出さないようにしてもらえますか?・・・明日、手術なんですよ。い 「理事長・・・・・・?」 玲於奈は唖然とした。聖セフィロト国際病院の理事長の長嶺洋一は「へへへ・・・」と 病院を出て、エントランスを歩きながら玲於奈は考えていた。「安曇恭太郎」という名前に聞き覚えがあった。 そこへ突然、駐車場から黒いバンが現れ、玲於奈の数メートル先を歩いていた少女を撥ねた。バンからポリ *********************************************************************************************** 森崎空と篠美月が日出子の影を使って、宿主の捜索を始めたのは、その前日のことだった。 影の帰巣本能を利用すれば、日出子の居場所は特定出来る。宿主と勘違いされている美月を見失えば、影 空は影の「追跡」を始める前に、日出子の現在地を絞り込もうとした。闇雲に影を追跡しても、天候の変化や 美月に上野・横浜・八王子・浦和などの東京近郊の都市を一周するような形で移動してもらい、楔で固定し 二人の努力の結果、日出子が東京の多摩北部・・・空と美月の生活圏から、予想以上に遠くない場所にいること 空は日が暮れてから、一旦自宅へ戻り、キャンプのテントなどに使うアルミニウム製のペグをグラインダーなどで 翌日、美月と日出子は播磨山公園で合流し、美月に千葉県に移動してもらい、日が暮れるまでその場で待機す (こんな回りくどい事をしなくても、春原に連絡して、安曇恭太郎を探した方が早いのではないだろうか?・・・・ 影の動きが止まった。美月より日出子が近い距離にいることを感知したようだ。 空は慎重に楔を外した。影はのろのろと北西に向けて移動し始めた。もし、影が直線距離を移動していたら、追跡 追跡は朝焼けが影を照らす午前5時頃から、午後3時まで順調に進んでいた。路上ですれ違う大人も特に日出子 (相手だって馬鹿じゃない・・・分影された影が何処へ消えたかは想像がつく筈だ。何故、一度も美月の周辺に誘拐 空は多摩地区の道のりを40Kmほど移動していた。日出子の影は田園風景の中にそびえ立っている要塞のような病 (聖セフィロト国際病院?・・・・日出子はここに隔離されている・・・・???) 空がショルダーバックから携帯電話を取り出して、美月に連絡するために番号を打ち込もうとした瞬間、空は自分 空は狼狽した。影を失った宿主は確実に死んでしまう。これでは、日出子を発見しても全く意味が無いのだ。 何のために自分はここへやって来たのか、空は立ち上がろうとしたが、打撲を受けた衝撃で身体が動かなかった。 水沢玲於奈は白目を剥いて気を失っている森崎空の様子を確認すると、自分の携帯電話を取り出して城戸の面会 「理事長のナガミネに伝えて・・・病院のエントランスであなたの友人が車に撥ねられたわ」 玲於奈はすぐに電話を切り、黒いバンの開いているスライドドアから中へ侵入した。車中には予備の物と思われる 「あ・・・あのガキ、何してるんだ!?」 戻ってきた覆面男が狂ったようにガソリンを撒いている少女を取り押さえようとした。玲於奈は残りのガソリンを男 バンのドアから炎が噴出し、揮発性の高い液体を大量に浴びた男に飛び火した。玲於奈は息を呑んだ。 「熱い、熱い、助けてくれーーーっ」 一人の男が火だるまになっていた。他の覆面男たちはしばらく呆然とその様子を見ていたが、炎に巻き込まれること 「・・・・・・・やられたから、やり返しただけよ・・・・」 覆面男は、半年前に玲於奈を襲った暴漢の仲間だった。 玲於奈は失神している空を炎上する車から引き離した。その直後に車は爆発した。田園風景に似合わない黒煙が立
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